マイド!GenesisPlanAことジェネです。
今回は緊急でお困りだった方からの相談がありました。
故障修理の相談です!
私、今ではメーカーへの開発助力として技術的なサポートを主だった内容の活動をしておりますが、普通はこの様なメンテナンス作業的な話の内容に関して敢えて受けていません。しかし、今回の相談元は、最近ではあまり接点はなくお付き合いも薄くなってしまったものの、少し永い縁の有る方だったので話を伺いました。
FANATECブランドの吊り下げ式ペダル”FANATEC V3 Pedals inverted”を所有してらっしゃる方で、これは前のオーナーから譲り受けたものであり、現在はそれを引き継がれて使用してらっしゃる代物。普段はASSETTO CORSAでドリフトを主体に活動してらっしゃる御方です。
今回の相談内容の主たる不具合の原因としては、お話を伺う限りでは、どうやら今回はクラッチペダルの軸部分の摩耗によるフランジスリーブ軸受け部品が何と真っ二つに割れている……。ワオ!
元々、V3シリーズは主要な骨格部分を含めて自社の汎用パーツを使用しているので設計的に無理があると私は判断していました。なのでこの辺のV3系ペダルに関してはそれなりの寿命でしかないという傾向もあります。
しかし、以前にもご紹介した改質的なチューンによって延命処置=フィーリングの大幅な改善が出来る事でかなり変わる!事もある。
変わると言ってもSimforge Mark-1ペダルやSimRacingProの超ハイエンドペダルの様な次元の違うコントロール性を得られるわけではないけど、それに少し近づけられる様な、そしてタネさえ分かれば誰にだってチューニングできるというものを紹介しています。
さて、今回のプランは、その使用感から当初はペダルを全解体し、新品のフランジスリーブを交換するつもりだったのだが……。それは前提でメンテナンスのプランを考えておりました。
実はフランジスリープと言うのは軸部分にある褐色のアルミのリング状のもので、これを普通に交換したいところではあるが、実はこのフランジスリーブは一般的な規格ではなく、FANATECペダル用に自社で調達しているものである。
しかもこれは材質的にアルミでであり、且つ1mm程度と凄く肉薄であり、アルマイト処理もされていないのと等しいくらいに滑らない。
多分、無処理か無処理に近いんだろうなと思います。
一昔前にHeusinkveldのペダルもこれと同じようなくらいにライフが短く、しかも生産ロットで若干の品質面でのバラつきがあるため、ワコーケミカルのバイダスドライみたいなドライタイプの濡れない摺動スプレーを小まめに吹き付けておかないと、幾度と踏み込んでる間に摩耗して鳴き始めるという……それを予防するケアは必要なものである。
実はこの辺の摺動効果のあるスプレーは、各ペダルによって相性があるので、FANATECペダルの場合は、このバイダスドライは有効ではない‼
余計に鳴きます。
- フット部分の配列が元々不揃い
実はこのペダル、私も過去に所有していた時期がありましたが、どうしてもアクセルペダルのみがオルガン式であり凄く踏み難い構造!!
しかも元々、各キーの高さや角度が不揃いであるため、個人的には凄く踏み難いペダルでした。
各ペダルのキーの角度は変えられるものの、可動域は限りがあります。そしてブレーキに対してアクセルペダルが立っているので、個人的にもヒール&トゥーする際にも踏み難く、どうしてもゲームチックなペダルワークになってしまう事に違和感があったりしたのです。
しかし、例を挙げるならば、一般的にはオルガン式でもポルシェを含む海外のスポーツカーは普通に実装されている。このオルガン式では踏みやすいし違和感なくヒール&トゥーも問題ない訳です。
SimRacingProのInvertidキットのオードソックスなタイプはアクセルのみオルガンであるものの、この辺の踏み心地の不快さはなく、自然な形でコントロールできるし、踏んで行ける。
何故、FANATECはこんな中途半端な設計にしたのだろう?とつくづく思っていました。
そこで当時はこのV3ペダルInvertidのアクセルペダルのみの吊り下げ式に改造した経験がある事から、今回の入院で預かるペダルでイメージした煮詰めた設計でやってみようと思い立ち、暫くぶりにそれを実装しようと試みたのです(笑)
勿論、持ち主には一報を入れておきましたので、分解洗浄メンテナンスにプラス、アクセルペダルの吊り下げ化を提案したところ快く了承頂きました。
今回のモデルは更に煮詰めた仕様になっているので、多分もう二度とやらないと思いますので世界にひとつだけの”オリジナル改”になると思います(笑)
入院したV3ペダル Invertidはこちら。簡単な解説を交えて紹介していきたいと思います。
解体作業編
こちらのペダルが今回預かった持ち主さんのもの。
状態としては少しだけ時間は立っているものの経年劣化も少なく状態としては悪くない。
診断した結果、ところどころに汚れの蓄積と摺動効果が薄れた状態で使われている感じがあり、ところどころ微妙に擦れてしました。ペダルを蹴っている事から、ピンの周りにクリアランスが発生しており、少々ガタがきていました。ペダルの支持部のピンの部分はホールセンサーの磁石がついているのですが、より大きくガタつく場合は、ノーマル8mmΦ⇒10mmΦ程度に穴を広げて、そこに摺動効果のあるスリーブを圧入してあげると効果がありますし、それ以上の変摩耗もしなくなります。ここは余談です。
この辺も含めて洗浄から始めたいと思いました。
FANATEC V3 Pedals Invertidといえば、個人的にはこの不自然なペダルの角度が凄く気になっていたところ。寧ろ、ヒトに薦めるならこれより安価なV3ペダルの方が安価ですし、ペダルに付属しているパーツを併用してフットパネル角度を調整したほうが、寧ろペダルコントロールがやり易いと思いましたので、一般向けにはそちらの方が扱い易い。Invertidは値段も高いですしね!
細かいところをチェックしていくと、古くなった滑剤が少しこびり付くような状態でした。元々、全てをバラシて組み立てるつもりでいたので、この辺は摺動パーツの摩耗度合いをチェックしたかったのです。
さて、先ずはフレームの解体から始めるのですが、FANATEC V3ペダルのフレームに配したパイプ類は、それぞれ長さが異なるので、どの部位にどのパーツが着いていたのか把握する必要があります。そして、メインフレームのネジは凄く固いので、ヒートガンを使ってじっくりと時間を掛けて温めてひとつひとつ丁寧にネジを取り除いていきます。
お薦めなポイントとしては、一気にすべてを解体するのではなく、片側から外していく事!その方が分かり易いですし、順を追って点検しながら各パーツを外していけるからです。
この辺を一気に解体しがちですが、一気にやってしまうと、細かいところではありますが、常々踏み込んでいる時に、特にどの部分にストレスが掛かっているのか?というポイントを観察して見ていきます。
簡単な様で細かい観察で使用感をイメージしていくのは難しいところではありますが、自身のペダルであれば踏んでいる時のイメージと照らし合わせていくとフットワーク時の足の動きやペダルに踏み込んでる癖的なものも分かったりするので、案外無視出来ないところです(笑)
クラッチペダルのフランジスリーブ。真っ二つに割れておりました。
実はここの異常や不具合に関しては、症状を聴取した際に聞いておりますので、この様になっているのではないか?という予想はしておりました。
因みにこのフランジスリーブは一般的な規格のものではないので、一番手っ取り早いのはFANATECから入手する方が得策です。メーカーサポートの窓口(ネットor電話)で直接交渉して入手するように指示をしておりましたので、ペダルが送られてきた際には同梱しておりました。
FANATECブランドはそのユーザーでないと部品を含めたサポートをして貰えないという背景があるので、中古で買ったユーザーさんは将来的なサポートを受けれる様にシリアル番号など登録しておこうね。
尚、予めストックしている部品とそうではない部品があったりするので、欲しい時に手に入らないなんてこともあったりします。予備として少し多めに入手したほうが得策化と思います。しかし、昔と違って大盤振る舞い(?)する窓口ではないので、必要最低限しか入手できない場合も想定できるので、そこは慎重に交渉すべし。
割れていたフランジスリーブが固着していたので少々強引に剥がし取り、指でなぞってみてバリが立っていないか確認します。バリが立っていたら棒やすりなどで滑らかにしておきましょう。
フランジスリーブを挿入する前に、一度、パーツクリーナーで綺麗に洗浄した後に、スリーブが接触する淵穴や接触面部分全体にモリブデングリスを少々盛るくらいに引き伸ばしつつ指で塗ります。
写真のそれが嵌め込んだ形ですが、綺麗になったでしょう?
フランジスリーブが若干回るくらいにスムーズであるのか、指で感触を確認してみて下さい。
ダンパー部分を洗浄し、このフランジスリーブを新品に交換した状態がコチラ。ピカピカでしょ!
これを組む際に取り出しまするは、私が常に愛用しているキタコの高級モリブデングリス。これをペダル側のフランジ穴に綿棒で丁寧に塗布してからフランジスリーブを嵌めますが、稼動するジョイント部分や、すり減ってきたシャフトの穴にも塗布すると尚良い。FANATECのInvertidはその構造上、踏んだ時に掛かるストレスが大きいのだ。
ブレーキにも細工をしていく。通常、V3ペダルのブレーキはノーマルの発泡PU(ウレタンの発泡体)が2個挿入されているが、こちらは幾度なく踏んでいると経年でCS性が薄らいでいって、どんどんとヘタリが出てくる。
短いPU発泡体と、余っていたプロMODソフトを2個。プロMODの片側にはホムセンでも売られている半球状ドーム型の防振ウレタンを接着しておく。
この方法は以前にもFANATEC V3ペダルのブログ記事にも載せていますが、たったこれをするだけでもタイムは大きく向上する。踏んだ質感もかなり変わるのだ。
ブレーキ部分のユニットパーツを全てパーツクリーナーで洗浄した後、グリーン+グリーン+防振ウレタン+PU発泡体という順番に挿入していく。
依頼主はドリフトを主にプレイするので、ブレーキタッチもダンピング量を多めに、そして少し柔らかいタッチ感が良いだろうと、プロMODもこの組み合わせとしました。
クラッチのフランジスリーブが摩耗で減っていたのはクラッチを頻繁に蹴るからで、この過酷な使用感から察するに、仮に油分の効果が薄くなってもモリブデン粒子が摺動効果を得られるので、キタコの高級モリブデングリスを採用しているという訳です。
実はこのキタコのグリスはヌメっとした強い粘り気があるので損じゃそこらじゃ摺動効果は薄れないので、V3ペダルにはうってつけのグリスなんですよね。
一般的には呉55○みたいなシャバシャバした滑剤を使う人が多いんですけど、あれだと乾いてしまうのと強い応力が掛かると金属が剥き出しになるので、私としてもお薦めしておりません。
さて、ここで取り出しまするはアルミニウムのパイプ。FANATECのパイプは内径16mmで厚みが2mmというものを採用しているので、これに併せてカットしていきたいところですが、今回はアクセルペダルも吊り下げ式にするプランなので、これを任意の長さにカットしていきます。
ペダルの軸受け部分と、可動部分のシャフトの長さが異なりますので、各々ノギスで測って個々に切り出していきます。
因みに最初に取り寄せたアルミニウムパイプは柔らかすぎるモノでしたのでカットの際にバリが凄く出ました。これでは過酷なペダルの使用感に合わない、ライフ的な懸念も当然ありましたので、後に長尺のアルミパイプを探して調達してきました。
このアルミパイプですが、普通ならグラインダーなどでカットする方が手っ取り早いのですが、水平且つ平面の面精度が出しにくいので、結局は万能なパイプカッターを使用してカットしていきます。
カットしたアルミパーツを細かいバリと面精度を高める為に肌間隔で研磨していきます。ここも大事なポイントです。
何せありものの工具類で自作していく訳ですから、やれる事にも限りがありますので、この辺は経験が活きます(笑)
アクセルペダルまで全て洗浄及びグリスアップが済んだら一度仮組みしてみます。
3つのペダルの感覚的にアクセルが内側に寄り、少し窮屈になります。
そこで、先程カットしたアルミパイプを使います。独自で任意の寸法でカットしておいたアルミパイプは、この3つのペダルの間隔を調整するものです。
そして、アクセルペダルのフットパネルを単純に上下変えただけではMAXに踏み込んだ際に床面のステーに当たってしまうので〜
アクセルペダルのフットパネルを上気味に固定してから角度調整し、先程のアルミパイプを差し込んだ状態で一度チェックします。
ちなみに今回は負荷の掛かる背面側フレームに内径16mmのシャフトカーラーという軸ブレ防止用固定具と、短くカットしたアルミパイプと併用して、こういう細工をする事により踏み込み側への応力に対して、より踏ん張りを効かせて軸ブレを防ぐ手段を用いました。
欲を言えば上面側の軸足側にもこの細工をしたかったのですが、シャフトカーラーがこのサイズしか無かったということもあって、上面に備わるガードに擦ってしまう感じでしたので、今回は少し簡略化したためです。
本来なら時間があればグラインダーなどを併用して削ってでも外寸のサイズダウンとかするのですけど、ここであまりリスクを誘発する可能性がある部分があったりすると嫌なので敢えてスルーした次第です。
一度、きちんとした形で組み立ててみて、アクセルペダル側の配線の取り回しを確認します。それと同時に各ペダルの間隔をチェックします。
納得のいく位置関係が得られるまで、何度も外してはパイプをカットして、先程の工程を繰り返し行っていく訳ですが、従来はアクセルのみオルガン式の設計であるため、この辺の作業が実際にペダルワークした時に気持ちのいい使用感を生みます。
因みに上の写真のアクセルペダルの位置関係ですと、フルに踏み込んだ際に下部の座面に接触したり、踏み込んだ角度が不自然になるので、この後にフットパネルごと位置関係を細かく調整しています。
各ペダルのフットパネルの高さや深さ、踏み込んだ時の位置関係などをチェックしながら丁寧に組んでいきます。
場合によっては純正のネジ類の固定も違うタイプのネジに換えたり、ランブルモーターの固定位置など、いろいろと微調整していきます。
そしてフットパネルの位置関係も当然チェックしながら作業を進めます。
全ての位置関係が整ったら、ネジにネジロック剤を塗りながら丁寧に組んで行きましょうね。
( *˙ω˙*)و グッ!
これで完成です!
メンテナンス着工前と後ではこんなにも印象は変わりますし、当然ながら操作性も抜群に跳ね上がります。ヒール&トゥーした時のブレーキとアクセルペダルの踏み込んだ時の位置関係も大事な要素であるため、その辺も考慮してバランスをとってあります。
細かいところではありますが、配線を保護をするための施工をしたり、各ペダルの配線がたわまない様に極細結束バンドで纏める作業も最終的な美的な部分にも関係するので、その辺もぬかりなく仕上げていきます(笑)
そ・し・て・最後の仕上げに錆びていたネジ類を外して錆取りをし、今回はマッドブラックを噴いて塗装して仕上げてみました。
あのInvertidのアクセルペダルが浮いてるって何だか新鮮な感じでしょ?
各ペダルの奥行や高さ、可動域などなど、いろいろ動かしてみて微調整していって仕上げるという部分においては純正部品だけでも組み合わせ方次第では足ります。
これを組んだ後は約2日間ほどシェイクダウンで試運転しておりますが、使用感は良い意味で激変してるもんなんです。
( ˙▿˙ )☝
あと、余談ですが、吊り下げにした際に、背面側の踏ん張りで軸ブレ防止を利かせるために16mmシャフトカーラを使っていますが、ここの部分において何ら細工をされていないモノを稀に見掛けます。ここにこの様な固定の細工をするのとしないのでは雲泥の差がありますよ。
今回の改造プランは当初は依頼の中には無かったモノではありますが、今回のメンテナンスで、以後、こんな感じでFANATECのペダルをメンテナンスするのは引退かな~と思ってます。
全てを解体し、洗浄してますので、新品に近いとまではいきませんが、かなり蘇った感がありますよね❣
という訳で、本件は一件落着!
*˙︶˙*)ノ"